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最高裁判所第一小法廷 平成3年(オ)652号 判決 1991年12月05日

上告人 村佐登 ほか二名

被上告人 国

代理人 鎌倉克彦

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人兼上告人村佐登、同森重知之代理人小笠豊の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 四ツ谷巖 大内恒夫 大堀誠一 橋元四郎平 味村治)

上告理由

第一確認の訴えについて

一 控訴審判決は、「右送達手続あるいは本件証拠保全決定に基づく提示命令はいずれも裁判所のなす訴訟行為であるところ、適法な送達がなされたにもかかわらず送達を受くべき者が正当な事由なくして送達書類の受領を拒絶した場合あるいは適法な証拠保全決定に基づく検証物の提示命令を拒否した場合には、もっぱら訴訟法規の定めるところにより訴訟法上の法律関係に影響を及ぼし、あるいは訴訟法上の法律効果を生ずるに止まるのみであって、訴訟当事者の司法上の権利義務ないし法律関係に直接影響を及ぼすものでないから、控訴人らの前記訴えは一定の法律関係の存在又は不存在の確認を求めるものではないことは明らかであり、不適法な訴えといわなければならない。」としている。

二 しかし、適法な証拠保全決定に基づく検証物の提示による検証の実施により、当事者の一方は、証拠を有効に確保し、それ以降の改ざんのおそれなどを防止しえたという私法上の利益も得るものであって、これは訴訟上の法律関係に止まらず、私法上の法律効果も生じるものというべきである。

それは当事者の一方の訴訟上の主張が、訴訟行為であると同時に司法上の行為にも該当し、時に相手方に対する名誉棄損や侮辱にあたり、私法上の効果を発生させるのと同じことである。

さらに本件のような不当な提示拒否について、当該本案訴訟手続き内での解決だけでは不十分である。同種の国立病院や国立大学病院などにおける診療録などの証拠保全事件における関係書類の送達場所に関する紛争を解決するためにも、別訴で確認を求める利益があるものと解すべきである。

第二本件送達手続きの適法性について

一 控訴審判決は、「権限法二条二項は「法務大臣は、行政庁の所管し、又は監督する事務の訴訟について、必要があると認めるときは、当該行政庁の意見を聞いた上、当該行政庁の職員で法務大臣の指定するものにその訴訟を行わせることができる」旨規定しているところ、右規定に基づき法務大臣が本件国立病院長あるいは本件国立病院のその他の職員を右指定代理人としたときは、同人らの事務所である本件国立病院も本件送達書類の送達場所となるものと解されるが、本件証拠保全手続にあっては、右病院長等が指定代理人となっていないことは明らかであるから、本件送達書類の本件国立病院への送達は違法であると言わざるを得ない」としている。

しかし証拠保全の関係書類の送達を受けることが、訴訟を行うことに該当するのであろうか。

訴訟を行うことが出来る者でなければ、証拠保全の関係書類の送達を受けることは出来ないのであろうか。

民訴法一七一条(補充送達、差置送達)は、「送達をなすべき場所に於いて送達を受くべき者に出会わざる時は事務員、雇い人または同居者にして事理を弁識するに足りる知能を具える者に書類を交付することを得」としている。

国立病院長や国立病院の他の職員(医事課長など)は、当該国立病院における診療録などの証拠保全手続きの関係書類の送達を受けることが出来る事務員、雇い人に該当する者と解すべきである。

二 控訴審判決は、また「権限法一条は国を当事者又は参加人とする訴訟について法務大臣に国を代表する権限がある旨定めた規定であり、控訴人らが例として挙げるのは、国を当事者ではなく、第三債務者とする債券執行事件について当該係官に送達受領権限を与えているのであって、同規定は権限法一条の例外とは言えないのみならず、……国を第三債務者とする債権執行事件の場合とは到底同日には論じえないところである」としている。しかし、国を第三債務者とする債権執行事件においても、第三債務者として表示されるのは国であるにもかかわらず、国を第三債務者とする債権執行においては、迅速円滑な事務処理などの目的から、法務大臣が国を代表せず、金銭の支払いを担当する支出官や資金前渡し官吏等の係官に送達受領権限を付与しているのであり、これは事件の種類、性質、状況により、法務大臣以外の者に送達受領権限を認めることが適当で妥当である場合があることを示しており、特別の規定がなくとも、事柄の性質から認めてよいことである。

三 控訴審判決は、「証拠保全決定は原則として事前に当事者双方に告知されなければならず、証拠保全決定に基づく証拠調べの期日には申立人のほか相手方をも呼び出すことを要するものとされているが、右呼出は当事者双方に立会いの機会を与えるためであるところ、右立会権を有するのは、国を相手方とする証拠保全の手続きにあっては、権限法一条又は二条一項により法務大臣又はその指定する職員であって、国立病院長ではないところ、右呼出状等が立会い権限のない国立病院長に送達されるとすると、法務大臣又はその所部の指定代理人は証拠調べの期日を了知することが出来ず、立会いの機会が奪われる結果となるから、国立病院における診療録等の証拠保全の場合であっても、当該病院を送達場所と解することは出来ない」としている。

しかし当該国立病院長に送達すれば、病院長から法務局へ直ちに連絡されるわけであるから、法務大臣又は指定代理人の立会い権は十分確保されるはずであるし、病院の診療録などの証拠保全においては、当該診療録等を作成し保管している当該病院長または医事課長などの担当職員が、作成・保管状況については一番詳しいわけであるから、病院長または医事課長など病院担当職員の立会いがあれば、国立病院の診療録などの証拠保全の立会いとしては必要十分な機会を確保されたものというべきである。実際に診療録などの証拠保全は、診療録等を提示して、必要な部分をコピーを取るか写真を撮るだけの手続きであり、病院長や病院の担当職員が立ち会っていれば国の立会い権は十分確保されたといってよい。

診療録等の証拠保全手続きに法務局の指定代理人が立ち会って何かすることがあるかといえば、何もせずに裁判所の職員などがコピーを取るのを見ているだけである。

わざわざ法務局の指定代理人が出てきて、何か具体的にすることがあるかといえば皆無である。

以上より、国立病院の診療録等の証拠保全の立会いとしては、病院長又は当該病院の担当職員の立会いがあれば、国の立会い権としては必要十分に確保されたものといってよく、さらにどうしても法務大臣又は指定代理人の立会いが必要だというのであれば、当該病院長から直ちに法務局へ連絡がなされるのが通常であるからそれで十分である。

同様な問題は、日本赤十字社や共済組合連合会、県立病院、厚生連、多数の病院を経営する医療法人(済生会、徳州会など)等でも起こるはずであるが、現実にはこれらの病院の場合、当該病院宛送達されており、代表者のいる本部に送達しなければならない等と非現実的なことを主張する者は誰もいない。

国立病院とこれらの病院を区別する理由は何もない。

法務大臣の権限に関する法律は、国立病院の診療録などの証拠保全の関係書類の送達場所を当該病院とすることを排除するものではない。

以上より国立病院を送達場所とした本件証拠保全決定及び期日呼出状の送達を無効とした一審及び控訴審判決は違法である。

第三本件証拠保全決定及び提示命令の有効性について

一 仮に証拠保全決定及び期日呼出状の送達は、病院に送達しても無効だとした場合でも、本件証拠調べは、「急速を要する場合」として、相手方を呼び出さずに実施された有効な証拠調べであったと解し得る。

その有効な証拠保全決定及び提示命令に違反した被上告人国の所為は違法である。

二 控訴審判決は、「控訴人らは証拠保全手続きにおいても、法務大臣が送達を受けるべき者であるとすると、その間に証拠の隠匿や改ざんをされるおそれが強い旨主張するが、仮にそのようなおそれが強いとすれば、相手方である国に対しては証拠保全の決定を事前には告知せず、事後に遅滞なく告知するとか、証拠調べの直前に決定の告知と期日呼出をするとかの運用上の工夫により、或いは「急速を要する場合」として相手方の呼出をせずに証拠保全決定に基づく証拠調べをすることにより、かかる事態に十分対処することが出来るのであるから、かかる不都合が生じることのみをもって、控訴人らの主張するような解釈を取ることはできない」としているが、全く四角四面の非常識な石頭的論法である。

本件の証拠保全決定をした裁判所は、証拠の隠匿や改ざんを防ぎ、且つ国の証拠調への立会い権も実質的に保障する方法として、当該病院へ送達することによって国の立会い権も保障し、且つ改ざんのおそれなども防ごうとしたものであり、且つこれが従来の国立病院における診療録などの証拠保全の場合の送達の慣行でもあったわけであり、国の立会い権と改ざんのおそれなどを防ぐという両方の要請を満たすためのバランスを計った真に妥当な扱いである。

三 「急速を要する場合」として相手方の呼出をせずに証拠保全決定に基づく証拠調べをすることができるのであるから、法務大臣や法務局への送達をせずに、当該病院を送達場所とした証拠調べの実施も有効と考えるべきであって、相手方を呼び出さずに証拠調べできるから、当該病院を送達場所とした送達を無効として、当該証拠保全決定及び提示命令を無効と解すべきでないことは自明の理である。

少なくとも、本件において診療録などの提示拒否は、「急速を要する場合」として相手方の呼出をせずに実施された有効な証拠保全決定及び提示命令に違反した違法なものである。

本件証拠保全決定の実施は「急速を要する場合」として、相手方の呼出を要せずに実施できるものであるから、仮に送達は病院にすべきでないとしても、送達を要しない場合として、本件証拠保全決定に基づく証拠調は実施されたものであり、その提示命令に違反して提示しなかった被上告人国(具体的には病院長や訟務部長)の行為は違法である。

そのため上告人らは、有効な証拠調べが出来ず、実質的に損害を被ったものであるから、その損害の賠償は認められるべきである。 以上

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